【数学徹底解説】車が交差点を通過する確率

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1. 車が交差点を通過する確率は?

今回考えるのは以下の問題です。

問題

とある交差点で、1時間以内に車が通過する確率は87.04%であったとき、15分以内に車が通過する確率はどのくらいか。

今や、外に出れば見ないことはないというくらい身近になった車。そんな車が、交差点を通過するのはよく見かける光景です。では、車がどのくらいの確率で交差点を通過しているのか考えたことはありますか?よっぽどの物好きでない限り、考えたことはないですよね。

今回は、そんな身近な光景である、車が交差点を通過する確率について、考えていきたいと思います。直観的な解説から、少し数学的な内容まで深堀して解説していくので、ぜひ一緒に考えていきましょう。

2. 解答&解説

まずは、一般的な回答から。

15分以内に車が通過する確率というのは、言い換えると「少なくとも1台は車が通過する確率」ということになるので、なんだか余事象を考えるのがよさそうです。求める確率を\(\small \rm{P}\)、余事象、すなわち、15分以内に車が1台も通過しない確率を\(\small \rm{P}_{0}\)とすると、
$$ \rm{P} = 1 – \rm{P}_{0}$$
と表せます。\(\small \rm{P}_{0}\)は、15分以内に車が交差点を通過しない確率なので、1時間経っても、1台も車が通過しない確率は、\(\small (\rm{P}_{0})^4\)となります(1時間は15分の4回分になるので)。1時間経っても車が通過しない確率は、問題文から、1-0.8704=0.1296と求まるので、\(\small (\rm{P}_{0})^4=0.1296\)となります。よって、素因数分解などを使うと、\(\small \rm{P}_{0}=0.6\)なので、\(\small \rm{P} = 1 – \rm{P}_{0}=1-0.6=0.4\)。よって、15分以内に交差点を車が通過する確率は40%だとわかります。

3. よくある確率の罠

さて、答えは40%ということで、意外と高いなと感じた人もいたのではないでしょうか?
ここでは、上記の問題を例に、よくある間違い、すなわち確率の罠についても解説します。
皆さんも、どこが間違っているのか考えてみましょう。

単純に割ってはいけない

1時間以内の確率が87.04%なら、15分はその4分の1の時間なので、確率も4分の1で、21.76%という考えはどこがダメなのでしょうか?

直観的には、時間が短くなれば、通過する車の台数も減るので、確かに確率は下がりそうですね。ただ、仮に時間に比例して確率が増減するのであれば、例えば、2時間以内に車が交差点を通過する確率はどうなるでしょう。1時間の2倍で174.08%になってしまい、確率が100%を超えてしまいます。

一般的に、確率は時間には比例しないのです。時間に比例するのは、通過する車の平均台数ですね。

余事象を使う見極めをする

15分以内に車が交差点を通過する確率を\(\small \rm{P}\)として、そこから、15分間隔で\(\small \rm{P}\)を掛け算すれば、1時間以内の通過確率が求まるので、\(\small \rm{P}^4=0.8704\)で求めるのはなぜダメなのでしょうか?

これは、実際に事象をイメージしてみるとよいです。1時間以内に車が通過するという事象を具体例で考えると、たとえば、開始3分で車が通過する場合もあれば、開始59分で初めて車が通過するという場合などが思い浮かびますね。開始59分で初めて通過した場合、15分以内には、車は通過していないので、先程の「15分間隔で\(\small \rm{P}\)を掛け算する」という考え方がおかしいことに気づきます。ここの式で求めた確率は、15分以内に必ず車が1台は通過することになるので、15分から30分、30分から45分、45分から1時間のそれぞれの間にも、必ず車が通過していないといけないことになってしまいます。でも、実際に求める確率は、1時間以内に1台でも通過していれば問題ないので、考慮できていないパターンがたくさん存在しています。

一度確率の計算式を立てたら、その事象を具体的にイメージしてみて、求めたい事象と一致しているか確認するようにしましょう。

4. なぜ15分以内の確率を掛け算していいのか

ここで、今回確率を計算するにあたり、15分以内に交差点を車が通過しない確率を4回掛け算することで求めていきましたが、そもそも掛け算で求めていいのか、という部分を突き詰めて考えると意外と難しいです。結論は、もちろん問題ないのですが、実は背景には、交差点を車が通過する確率が「ポアソン過程」に従うことが知られているため、このようなことができるのです。

4.1. ポアソン過程とは

ポアソン過程とは、一言でいうとポアソン分布を時間経過させたものです。ポアソン分布とは、ランダムに起こる現象について、発生回数の傾向を数学的に表したものであり、交差点を通過する車の台数や、通り過ぎる歩行者の人数、コールセンターにかかってくる電話の本数などを求めるときに使用されます。特徴としては、以下のようなものがあげられます。

ポアソン過程の特徴

・開始時点の数量は0.
・時間経過に対して、増量は独立.
・任意の時間間隔の分布はポアソン分布に従う.

今回の車の例にあてはめて考えると、まず、測定開始時に交差点を通過した車の台数はもちろん0台です。

次に、増量が独立という部分、独立というのは、相手に干渉されないという意味ですが、今回の場合は、時間が経過したから、車が通過しやすくなったとか、逆に通過しにくくなったということはないということで、通過する車の台数が時間経過に影響されないことを言っています(実際には時間帯によって交通量に差は出ると思いますが…)。

最後は、計測していた期間のうち一部の期間を切り取ったとしても、車の通過台数はポアソン分布に従うということで、どんな切り取り方をしたとしてもこれが成り立つということを言っています。

4.2. ポアソン過程と車の通過

車の通過台数がポアソン過程に従うことを考えると、まず、特徴の3つ目から、1時間車の通過台数を測定した際に、そのうちのどこか15分を切り取ったとしてもその確率はポアソン分布に従います。そして、特徴の2つ目から、時間経過に対して独立ということから、15分以内に車が通過しない確率と15分以降30分以内に車が通過しない確率は互いに独立なので、掛け算しても大丈夫ということです。

・交差点を通過する車の台数はポアソン過程になる。
・ある期間に絞っても、車が通過する確率はポアソン分布になる。
・ある期間に車が通過する確率は、互いに独立なので、掛け算が可能。

言葉としては理解しても、数学的に本当に掛け算していいの?と、不安になってしまう。そんな人向けに、次の章では、ポアソン過程を数式で導出しながら、車が交差点を通過する確率を考え直してみます。

5. ポアソン過程の導出

時間経過に伴って車が何台通過するかという分布を考えます。時間は連続的で少し考えにくいので、n分割することにします。分割した区間ごとに、車が通過した場合は〇、しなかった場合は×とします。たとえば、5区間目と7区間目に車が通過した場合は、「××××〇×〇\(\small \cdots\)」と表せます。このように考えると反復試行の確率が使えそうです。

今、\(\small t\)秒間を観測したところ\(\small k\)回車が通過したとします。1秒あたりに通過する車の平均台数を\(\small \lambda\)とすると、一区間当たりに車が通過する確率は\(\small \frac{\lambda t}{n}\)と表せます。少しわかりにくいので具体例で考えるならば、2秒間を4分割していて、1秒当たり1台の車が来る場合を考えてみましょう。2秒当たりでは、平均2台の車が通過するので、1区間あたりは、\(\small \frac{1}{2}\)台の車が通過します。つまり1区画当たりを車が通過する確率は、\(\small \frac{1}{2}\)になるよねってことです。ここで勘の鋭い人であれば、観測時間が長いと確率が1を超えるからおかしくないか?という疑問を持った方もいたかもしれません。たしかに、先程の例を16秒で考えた場合、16台を4分割すると一区間あたり4台となり、確率が1を超えてしまいます。これは、分割数が少なすぎるためにこのようなことが起こります。実はこの後分割数は無限大にすることになるので、経過時間にかかわらず、とても細かな一瞬で車がどのくらいの確率で通るかを議論していると思っておいてください。なので、t秒間をn分割した場合に、k個の区間で車が通過する確率としては、
$${\rm P} = {}_n C_k \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}$$
と表せます。

ではここから分割数\(\small n→\infty\)の極限をとることを考えます。

計算としては、
$$\small \lim_{n\to\infty} {}_n C_k \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}$$

$$\small= \lim_{n\to\infty} \frac{n!}{k!(n-k)!} \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}$$

$$\small=\frac{1}{k!} \lim_{n\to\infty} \frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1)(n-k)\cdots2・1}{(n-k)!} \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} $$

※n!を分解してみた&k!は極限に関係ないので外出した

$$\small= \frac{1}{k!} \lim_{n\to\infty} n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1) \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} $$

※(n-k)!は分母と分子にあるので相殺

$$\small= \frac{1}{k!} \lim_{n\to\infty} n\left(\frac{\lambda t}{n} \right )×(n-1)\left(\frac{\lambda t}{n} \right )×(n-2)\left(\frac{\lambda t}{n} \right )\cdots(n-k+1)\left(\frac{\lambda t}{n} \right ) \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} $$

\(※k個の\frac{\lambda t}{n}を分配\)

$$\small= \frac{1}{k!} \lim_{n\to\infty} \lambda t×\left(1-\frac{1}{n}\right)\lambda t×\left(1-\frac{2}{n}\right)\lambda t\cdots\left(1-\frac{k+1}{n}\right)\lambda t \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} $$

\(※\frac{\lambda t}{n}のnを分配\)

$$\small= \frac{(\lambda t)^k}{k!} \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\cdots \left(1-\frac{k+1}{n}\right)\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} \cdots (式1)\space\space\space$$

\(※\lambda tをおまとめ\)

ここで、

$$\small\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=e$$

を使うために、うまく式変形していく。

$$\small(式1)= \frac{(\lambda t)^k}{k!} \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\cdots \left(1-\frac{k+1}{n}\right)\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{-k} $$

※n乗と-k乗にわけわけ

$$\small= \frac{(\lambda t)^k}{k!} \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\cdots \left(1-\frac{k+1}{n}\right)×\lim_{n\to\infty}\left[\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{-\frac{n}{\lambda t}} \right]^{-\lambda t} ×\lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{-k} $$

\(※\lambda t割り込ませ\)

ここで、\(\small -\frac{n}{\lambda t}=r \)とおく。\(\small -\frac{\lambda t}{n}=\frac{1}{r} \)、\(\small n\to\infty\)で\(\small r\to\infty\)になることから、

$$\small= \frac{(\lambda t)^k}{k!} \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\cdots \left(1-\frac{k+1}{n}\right)×\lim_{r\to\infty}\left[\left(1+\frac{1}{r} \right)^{r} \right]^{-\lambda t} ×\lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{-k}$$

$$\small= \frac{(\lambda t)^k}{k!} e^{-\lambda t} $$

この式がポアソン過程を表す。

6. ポアソン過程を使用した別解

では最後に、最初の問題をポアソン過程の数式を使用して解いてみましょう。

まず、考えるのは「1時間以内に車が全く通らない確率」でした。これは、ポアソン過程としては通過回数が\(\small k=0\)、今回時間tの単位は秒ではなく分にすると、\(\small t=60\)ということになるので代入すると、

$$\rm{P_{60}}= e^{-60 \lambda} =0.1296$$

次に、「15分以内に車が全く通らない確率」は、も同様に

$$\rm{P_{15}}= e^{-15 \lambda} $$

と表せるので、計算すると、

$$\rm{P_{15}}= e^{-15 \lambda} =\left( e^{-60 \lambda}\right)^{\frac{1}{4}}=\left(0.1296\right)^{\frac{1}{4}}=0.6$$

よって、15分以内に車が通過する確率は、40%と求まる。

このように数式で表すことで、感覚に頼らずしっかりと説明することができるのです。

7. ポアソン分布

ちなみに、ポアソン分布を時間発展させるとポアソン過程になるといいましたが、逆を言えば、ポアソン過程の時間を止めたものがポアソン分布です。\(\small t\)を一定にすると\(\small \lambda t\)は、t秒間に通過する車の平均台数になるので、これを改めて\(\small \lambda\)とおきなおすと、

$$(Poisson分布)= \frac{(\lambda)^k}{k!} e^{-\lambda} $$

これがポアソン分布を表す式になります。

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