【確率の問題】車が交差点を通過する確率は?(日常に潜む数学を分かりやすく解説)

皆さんも信号待ちのときに車が交差点を通過する光景をぼんやり眺めた経験はないですか?

本記事では、そんな何気ない光景である車と交差点に関する数学の話題として、車が交差点を通過する確率の問題について考えていきたいと思います。おそらく、よほどの物好きでない限り考えたこともない話題とは思いますが…(^^;)。

直観的な解説からかなり踏み込んだ数学的な内容まで、高校数学までの範囲でなるべく分かりやすく解説してきたいと思いますので、ぜひ一緒に考えていきましょう!

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日常生活に潜む確率問題

【問題】車が交差点を通過する確率

問題:車が交差点を通過する確率

とある交差点で、1時間以内に車が通過する確率が87.04%であったとき、15分以内に車が通過する確率を求めよ。

問題解決のKey
・15分が1時間の\(\small \displaystyle \frac{1}{4}\)なので、15以内に車が通過する確率も87.04%の\(\small \displaystyle \frac{1}{4}\)になりそうだが、確率は時間に比例しない点に注意が必要(詳細はよくある確率の罠を参照)
・本問が考えにくい原因は、高校数学では時間的に変化する物事の確率はあまり扱わないため。本問を数学的にしっかり考えるには、ポアソン過程の基礎知識から理解しよう。
 解説

まずは、一般的な回答から。

15分以内に車が通過する確率というのは、言い換えると「少なくとも1台は車が通過する確率」ということになるので、なんだか余事象を考えるのがよさそうです。

求める確率を\(\small \mathrm{P}\)、余事象、すなわち、15分以内に車が1台も通過しない確率を\(\small \rm{P}_{0}\)とすると、

$$\small \mathrm{P} = 1 – \mathrm{P}_{0} \quad \cdots ①$$

と表せます。

\(\small \rm{P}_{0}\)は、15分以内に車が交差点を通過しない確率なので、1時間経っても1台も車が通過しない確率は、\(\small (\rm{P}_{0})^4\)となります(1時間は15分の4回分になるので)。1時間経っても車が通過しない確率は、問題文から、\(\small 1-0.8704=0.1296\)と求まるので、

\begin{split}
\small (\rm{P}_{0})^4=0.1296
\end{split}

という等式が成り立ちます。

あとは、素因数分解などを使って頑張って\(\small \mathrm{P}_{0}\)を求めると、

\begin{split}
\small \rm{P}_{0}=0.6
\end{split}

と求まるので、①より

\begin{split}
\small \rm{P} &\small = 1 – \rm{P}_{0}\\
&\small =1-0.6\\
&\small =0.4\\
\end{split}

よって、15分以内に交差点を車が通過する確率は\(\small 40\)%だとわかります。

よくある確率の罠

さて、答えは40%ということで、意外と高いなと感じた人も多いのではないでしょうか?

ここでは、上記の問題を例に確率問題を解くときによくある間違い、すなわち確率の罠について解説します。皆さんも、どこが間違っているのか一緒に考えてみましょう。

確率は時間に比例しない

1時間以内の確率が87.04%なら、15分はその4分の1の時間なので、確率も4分の1で、21.76%という考えはどこがダメなのでしょうか?

直観的には、時間が短くなれば、通過する車の台数も減るので、確かに確率は下がりそうですね。ただ、仮に時間に比例して確率が増減するのであれば、例えば、2時間以内に車が交差点を通過する確率はどうなるでしょう。1時間の2倍で174.08%になってしまい、確率が100%を超えてしまいます。

一般的に、確率は時間には比例しません。時間に比例するのは、通過する車の平均台数ですね。

・確率を安易に時間で割り算してはいけない

考慮漏れがないか

15分以内に車が交差点を通過する確率を\(\small \rm{P}\)とすると、そこから、15分間隔で\(\small \rm{P}\)を掛け算すれば1時間以内の通過確率が求まるので、\(\small \rm{P}^4=0.8704 \space \Leftrightarrow \space \mathrm{P}≒0.96\)だ!…、という解法は、どこがダメなのでしょうか?

これは、実際に事象をイメージしてみると間違いに気づきます。1時間以内に車が通過するという事象には具体的にどんなパターンがあるかを考えると、たとえば、開始3分で車が通過する場合もあれば、開始59分後になって初めて車が通過するという場合もあり得ます。

開始59分後で初めて車が通過する場合、15分以内にはもちろん車は通過していないことになるので、「15分間隔で\(\small \rm{P}\)を掛け算」してしまうと、開始から15分以内に少なくとも1台の車が通過していないといけないし、15分後から30分後の間にも最低1台の車が通過していないといけない…という状況になり、求めたい確率とはずれてしまっているわけです。

本問で実際に求めたい確率は、1時間以内に1台でも通過していれば問題ないので、\(\small \mathrm{P}^4\)だと15分間隔で必ず車が通過するという特殊パターンのみを考慮した確率となっており、他にも考慮できていないパターンがたくさん存在しているため、不適というわけです。

・一度確率の計算式を立てたら事象を具体的にイメージしてみて
 求めたい事象と一致しているか確認しよう

なぜ15分以内の確率を掛け算してよいのか

1時間以内に車が交差点を1台も通過しない確率を計算するにあたり、15分以内に車が通過しない確率を4回掛け算することで求めていきましたが、『そもそも掛け算で求めていいのか?』という部分を突き詰めて考えると直感的には正しそうですが、本当にそうかはかなり怪しそうです。

結論はもちろん問題ないのですが、実は背景には交差点を車が通過する確率が「ポアソン過程」に従うことが知られているため、このようなことができます。

では、次章からポアソン過程について詳しく解説していきます。

ポアソン過程の基礎知識

ポアソン過程とは

『偶然に起こる出来事の回数がどんな傾向になるか』を数学的に表したものをポアソン分布といいます。高校数学に出てくる正規分布や二項分布の上位互換だと思ってもらえればOKです。

ポアソン分布の具体例としては、問題にも出てきた交差点を通過する車の台数や、通り過ぎる歩行者の人数、コールセンターにかかってくる電話の本数などがあります。

そして、ポアソン分布が時間的にどう変化するかを表したものがポアソン過程になります。「時間的変化とかなんか難しい表現出てきた!?」という感じですが、具体例でいえば、交差点を通過する車の台数が1時間後や2時間後にどう変化するかを表したものになります。

ポアソン過程には、次のような特徴があります。

ポアソン過程の特徴
・開始時点の数量は0
・時間経過に対して、増量は独立
任意の時間間隔の分布はポアソン分布に従う。

それぞれの特徴がどういう意味なのかを、今回の問題の例にあてはめて考えみましょう。

まず、1つ目の特徴は測定開始時(開始0分時点)での交差点を通過した車の台数が0台ということを言っています。

2つ目の『増量が独立』という部分ですが、『増量』というのは時間が経過するという意味で、独立というのは確率ではおなじみ『独立試行』にも使われている通り、お互いに影響しない/無関係だよ意味です。なので、今回の場合であれば、時間が経ったからといって、車が通過しやすくなったとか、逆に通過しにくくなったといったことは起こらないよということ。つまり、通過する車の台数が時間経過に影響されないことを言っています(実際には時間帯によって交通量に差は出ると思いますが…)。まぁ、ランダムに起こる出来事なので、直観的にもそんな感じかなぁという程度で思ってもらえればOKです。

最後3つ目は、計測していた期間のうち、どこか適当な期間を切り取ったときの車の通過台数の分布(例えば10台以下が少なくて30台くらいが一番多いなど)をみると、車の通過台数はポアソン分布に従う(どの期間を切り取ったとしても絶対にポアソン分布になる)ということを言っています。

ポアソン過程を用いた車の通過確率の説明

車の通過台数がポアソン過程に従うことを考えると、まず、特徴の3つ目から、1時間車の通過台数を測定した際に、そのうちのどこか15分を切り取ったとしてもその確率はポアソン分布に従います。そして、特徴の2つ目から、時間経過に対して独立ということから、15分以内に車が通過しない確率と15分以降30分以内に車が通過しない確率は互いに独立なので、掛け算しても大丈夫ということが分かります。

・交差点を通過する車の台数は、ポアソン過程になる。
ある期間に絞っても、車が通過する確率はポアソン分布になる。
・ある期間に車が通過する確率は、互いに独立なので、掛け算が可能


言葉としては理解しても、数学的に本当に掛け算していいの?と、不安になってしまう。そんな人向けに、次章では、ポアソン過程を数式で表したうえで、車が交差点を通過する確率を数式的に1から計算していきます。

【別解】問題に対するより厳密な解法

ポアソン過程の導出

#はじめに
解説には数IIIの極限の知識が必要になりますのであらかじめご了承ください。

時間経過に伴って交差点を車が何台通過するかという分布を考えます。

通常、独立試行で考えるような1回目、2回目、…のような状況とは異なり、時間は連続的なので、いきなり時間で考えるのは難しいので、経過時間を\(\small n\)分割して分割した区間ごとに、車が通過した場合は〇、しなかった場合は×というルールで通過する車の台数をカウントしていくことにします。

たとえば、時間間隔を1秒ずつに分割した場合に5秒後(5区間目)と7秒後(7区間目)に車が通過した場合は、「××××〇×〇\(\small \cdots\)」と表せます。このように考えると反復試行の確率が使えそうです。

今、\(\small t\)秒間を観測したところ\(\small k\)回車が通過したとします。1秒あたりに通過する車の平均台数を\(\small \lambda\)[\(\small *1\)]とすると、一区間当たりに車が通過する確率は\(\small \displaystyle \frac{\lambda t}{n}\)と表せます。

\(\small *1\):平均台数 \(\small \lambda\)の具体例
例えば10秒間で5台の車が通過した場合は、1秒あたりに通過する車の平均台数は
$$\small \lambda = \frac{5 [台]}{10 [秒]}=0.5$$
になります。

\(\small n\)やら\(\small t\)やら\(\small \lambda\)やら一度に多くの文字が出てきたので、イメージを膨らませるために、ここで少し具体例を考えてみましょう。

たとえば、観測時間2秒間を4分割、1秒あたりに通過する車の平均台数が1台の場合を考えてみましょう。この場合、\(\small t=2、n=4、\lambda =1\)となります。

2秒間あたりに通過する車の平均台数は、\(\small \lambda=1\)台が1秒間あたりに通過する車の平均台数なので、\(\small \lambda \times t=2\)台の車が通過することになります。

よって、1区間(今回であれば、\(\small \displaystyle \frac{2[秒]}{4[分割]}=0.5[秒間]\))に通過する車の台数は、\(\small \displaystyle \frac{2[台]}{4[分割]}=\frac{1}{2}\)台の車が通過することが分かります。

ここで、今求めた\(\small \displaystyle \frac{1}{2}\)という数字は、1区間あたりの通過台数ではありますが、0.5秒(1区間)で0.5台(=50%)の車が通過するという確率としても捉えることができます。1秒間であれば、1台の車が通過する(=100%車が通過する)と解釈することもできるわけです。つまり1区間あたりを車が通過する確率は、\(\small \displaystyle \frac{1}{2}\)と考えられるよねってことです。

ここまでの計算を文字で数式化したのが、\(\small \displaystyle \frac{\lambda t}{n}\)になります。

ここで勘の鋭い人であれば、観測時間が長いと1を超えるから確率として解釈するのはおかしくないか?という疑問を持った方もいたかもしれません。たしかに、先程の例で観測時間を16秒で考えた場合、16秒を4分割すると一区間が4秒になるので、通過する車の平均台数は4台となり、確率が1を超えてしまいます。でもこれは、分割数が4分割と少なすぎるだけで、もっと100分割とかたくさん分割してあげれば、必ず1区間あたりに通過する車の平均台数を1以下にすることができます\(\small [*2]\)。

\(\small *2\):十分に分割すれば必ず1以下になる証明
一区間当たりに車が通過する台数 \(\small \displaystyle \frac{\lambda t}{n}\)が確率とみなせるためには、
\begin{split}
&\small \frac{\lambda t}{n}≦1\\
\small \Leftrightarrow \space &\small \lambda t≦n \quad \cdots①\\
\end{split}
を満たすように分割数\(\small n\)を選べばよい。すなわち、\(\small t\)秒間に通過した車の台数が\(\small \lambda t\)なので、通過した車の台数よりも大きな値で分割してあげれば1区間あたりに通過する車の台数が1以下になるため、確率として扱うことができる。
※補足すると、①を満たすような分割数\(\small n\)は絶対選べるので、\(\small \displaystyle \frac{\lambda t}{n}\)を確率として扱っても問題ない

実はこの後、分割数を無限大(数III履修者であれば\(\small n \to \infty\)の極限をとることになる)にすることになるので、経過時間を無限に分割した非常に短い時間(一瞬)で車がどのくらいの確率で通るかを考えていると思っておいてもらえればOKです。

よって、\(\small t\)秒間を\(\small n\)分割した場合に、\(\small k\)個の区間で車が通過する確率としては、

\begin{split}
\small {\rm P} = {}_n C_k \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}\\
\end{split}

と表せます。

では、ここから観測時間の分割数を無限大にすることを考えます。どういうことかというと、分割数\(\small n \to \infty\)の極限では1区間あたりの時間間隔は\(\small \displaystyle \frac{t}{n} \to 0\)になるので、もともと考えたかった連続的な時間を考えることになります。

つまり、

\begin{split}
\small \lim_{n\to\infty} {}_n C_k \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}\\
\end{split}

を計算することは、\(\small t\)秒間に\(\small k\)台の車が通過する確率を求めることができるわけです。

では、少し大変ですが\(\small n \to \infty\)の極限を計算していきましょう!

\begin{split}
&\small \lim_{n\to\infty} {}_n C_k \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}\\
&\small= \lim_{n\to\infty} \frac{n!}{k!(n-k)!} \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}\\
&\small=\frac{1}{k!} \lim_{n\to\infty}\left[ \frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1)(n-k)!}{(n-k)!}\right.\\
&\small \qquad\qquad \left. \times \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} \right] \quad [*3]\\
\end{split}

\(\small *3\):補足
二項係数の部分は、具体的に\(\small n!=n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1)(n-k)!\)と書き下すことで、分母の\(\small (n-k)!\)と約分できる形に変形。また、分母の\(\small k!\)は極限\(\small n\)とは無関係の文字のため極限の外に出した。

\begin{split}
&\small= \frac{1}{k!} \lim_{n\to\infty} \Bigg[ n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1) \times \\
&\small \qquad \qquad \left (\frac{\lambda t}{n} \right )^k \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} \Bigg]\\
&\small= \frac{1}{k!} \lim_{n\to\infty} \Bigg[ n\left(\frac{\lambda t}{n} \right )×(n-1)\left(\frac{\lambda t}{n} \right )×\\
&\small \qquad \qquad (n-2)\left(\frac{\lambda t}{n} \right )\cdots(n-k+1)\left(\frac{\lambda t}{n} \right ) ×\\
&\small \qquad \qquad \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} \Bigg] \quad [*4]\\
\end{split}

\(\small *4\):補足
\(\small n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1) \)と、\(\small \displaystyle \left(\frac{\lambda t}{n} \right )^k\)はいずれも\(\small k\)個の数字の積なので、一組ずつペアになるように式変形。

\begin{split}
&\small= \frac{1}{k!} \lim_{n\to\infty} \lambda t×\left(1-\frac{1}{n}\right)\lambda t×\left(1-\frac{2}{n}\right)\lambda t \times \cdots\\
&\small \qquad \qquad \times \left(1-\frac{k+1}{n}\right)\lambda t \times \left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}\quad [*5]\\
&\small = \frac{(\lambda t)^k}{k!} \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\times\\
&\small \qquad \qquad \cdots \times \left(1-\frac{k+1}{n}\right)\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k} \cdots (式1) \space [*6]\\
\end{split}

\(\small *5\):補足
\(\small [*4]\)から\(\small [*5]\)への式変形は、\(\small \displaystyle \frac{\lambda t}{n}\)にある分母の\(\small n\)を\(\small \displaystyle \frac{\lambda t}{n}\)とペアになっている\(\small n、n-1、n-2、\cdots、n-k+1\)の分母に持ってきており、たとえば、
\begin{split}
\small (n-1)\frac{\lambda t}{n} &\small =\frac{n-1}{n}\lambda t\\
&\small =\left(1-\frac{1}{n}\right)\lambda t\\
\end{split}
に式変形している(他も同様)。

\(\small *6\):補足
\(\small [*5]\)の式変形によって\(\small \lambda t\)が\(\small k\)個出てくるので、\(\small (\lambda t)^k\)となるが、これは\(\small n\)の極限に無関係な値なので、極限の外(\(\small \lim\)の前)に出した。

ここで、(式1)の極限部分について、

\begin{split}
&\small \lim_{n\to\infty}\color{#5c6bc0}{\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\cdots \left(1-\frac{k+1}{n}\right)}\\
&\small \qquad \times\color{#ef5350}{\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}}
\end{split}

のように青色部分赤色部分に分けて極限を考えていきます。

まずは簡単な青色部分については、

\begin{split}
&\small \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\cdots \left(1-\frac{k+1}{n}\right)\\
&\small \qquad=1\times1\times\cdots\times1\\
&\small \qquad =1\\
\end{split}

次に赤色部分の極限についてですが、そのまま\(\small n \to \infty\)にしてしまうと\(\small 1^\infty\)となり、一見すると1に収束しそうですが、これは自然対数の定義

$$\small\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=e$$

を利用する不定形の1パターンなので要注意(詳細は、「不定形の全7パーンを分かりやすく解説」を参照くださいm(__)m)。

では、自然対数の定義の式を適用することを念頭におきながら式変形して求めていきましょう。

\begin{split}
&\small \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}\\
\small =&\small \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{-k} \\
\small =&\small \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n} \quad [*7]\\
\small =&\small \lim_{n\to\infty}\left(\frac{n-\lambda t}{n} \right)^{n} \\
\end{split}

\(\small *7\):補足
\begin{split}
&\small \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{-k}\\
&\small =\left(1-\color{red}0 \right)^{-k}\\
&\small =1\\
\end{split}

ここで、\(\small m= n-\lambda t\)とおくと\(\small [*8]\)、\(\small \displaystyle n=m+\lambda t\)、\(\small n \to \infty\)で\(\small m \to \infty\)より

\begin{split}
&\small \lim_{n\to\infty}\left(\frac{n-\lambda t}{n} \right)^{n} \\
\small =&\small \lim_{m\to\infty}\left(\frac{m}{m+\lambda t} \right)^{m+\lambda t} \\
\small =&\small \lim_{m\to\infty}\left(\frac{m}{m+\lambda t} \right)^{m}\cdot \left(\frac{m}{m+\lambda t} \right)^{\lambda t}\\
\small =&\small \lim_{m\to\infty}\left[\frac{1}{1+\dfrac{\lambda t}{m}} \right]^{m}\cdot \left(\frac{m}{m+\lambda t} \right)^{\lambda t}\\
\small =&\small \lim_{m\to\infty}\left(1+\dfrac{\lambda t}{m}\right)^{-m}\cdot \left(\frac{m}{m+\lambda t} \right)^{\lambda t}\\
\end{split}

\(\small *8\):補足
変数変換について、\(\small [*7]\)の式に対して\(\small \displaystyle m=-\frac{n}{\lambda t}\)とおいて自然対数の定義の式になるように変形していく方法が一番最初に頭に浮かぶと思うので、変数変換の設定に違和感を覚えた人も多いと思う。

実は、今回求める
$$\small \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n} $$
は、\(\small \displaystyle -\frac{\lambda t}{n}\)のマイナス符号があるせいで、少し特殊な式変形をしないといけないため、解説に記載した変数変換をしている。

どこがうまくいかないのかは、実際に計算してみると分かる。
\(\small \displaystyle m=-\frac{n}{\lambda t}\)とおくと、\(\small \displaystyle n=-\lambda t m\)、\(\small n \to \infty\)で\(\small m \to -\infty\)より
\begin{split}
&\small \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n}\\
\small =&\small \lim_{m\to -\infty}\left(1+\frac{1}{m} \right)^{-\lambda t m}\\
\small =&\small \left[\color{red}{\lim_{m\to -\infty}\left(1+\frac{1}{m} \right)^m }\right]^{-\lambda t}
\end{split}
となり、一見すると自然対数の定義式と同じように見えるが、\(\small n\to-\infty\)となっている点が異なる。

さらに、\(\small \displaystyle \ell=\frac{m}{\lambda t}\)とおくと、\(\small \displaystyle m=\lambda t \ell \)、\(\small m \to \infty\)で\(\small \ell \to \infty\)より

\begin{split}
&\small \lim_{m\to\infty}\left(1+\dfrac{\lambda t}{m}\right)^{-m}\cdot \left(\frac{m}{m+\lambda t} \right)^{\lambda t}\\
\small =&\small \lim_{\ell \to\infty}\left(1+\dfrac{1}{\ell}\right)^{-\lambda t \ell}\cdot \left(\frac{\lambda t \ell}{\lambda t \ell+\lambda t} \right)^{\lambda t}\\
\small =&\small \left[\color{#ef5350}{\lim_{\ell \to\infty}\left(1+\dfrac{1}{\ell}\right)^{\ell}}\right]^{-\lambda t }\cdot \lim_{\ell \to\infty}\left(\frac{\ell}{ \ell+1} \right)^{\lambda t}\\
\small =&\small \color{#ef5350}{e}^{-\lambda t }\cdot 1\\
\small =&\small e^{-\lambda t}\\
\end{split}

知っておくと便利な極限
\(\small p>0\)として、
\begin{split} \small \displaystyle \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{p}{n} \right)^{n} = e^{-p} \end{split}

よって、(式1)は、

\begin{split}
\small \frac{(\lambda t)^k}{k!} & \small \lim_{n\to\infty}\color{#5c6bc0}{\left(1-\frac{1}{n}\right)\left(1-\frac{2}{n}\right)\times}\\
&\small \qquad \cdots \color{#5c6bc0}{\times \left(1-\frac{k+1}{n}\right)}\color{#ef5350}{\left(1-\frac{\lambda t}{n} \right)^{n-k}}\\
\small =&\small \frac{(\lambda t)^k}{k!} \color{#5c6bc0}{1}\cdot \color{#ef5350}{e^{-\lambda t}}\\
\small =&\small \frac{(\lambda t)^k}{k!} e^{-\lambda t} \quad \cdots (★)\\
\end{split}

というわけで、大変な計算でしたが、式(★)が\(\small t\)秒間に\(\small k\)台の車が通過する確率を表すポアソン過程の式になります。

ポアソン過程を用いた確率計算

前段が長くなりすぎて何を求めようとしていたんだか忘れてしまいそうでしたが、式(★)を用いて『1時間以内に車が通過する確率が87.04%であったとき、15分以内に車が通過する確率』を求めていきます。

考え方自体は同じで、まずは余事象である「1時間以内に車が全く通らない確率」を考えていきます。\(\small t\)秒間以内に車が全く通らない確率を\(\small \mathrm{P}_{0}(t)\)とおくと、\(\small \mathrm{P}_{0}(t)\)は通過回数が\(\small k=0\)のポアソン過程なので

\begin{split}
\small \mathrm{P}_{0}(t)=&\small \left. \frac{(\lambda t)^k}{k!} e^{-\lambda t}\right|_{k=0}\\
&\small = e^{-\lambda t}\\
\end{split}

を満たします。

よって、ここに経過時間\(\small t \)が1時間、すなわち3600秒なので、\(\small t=3600\)を代入することで、

\begin{split}
\small \mathrm{P}_{0}(3600) &\small = e^{-3600 \lambda}\\
\small 1-0.8704 &\small = e^{-3600 \lambda}\\
\small \Leftrightarrow \space e^{-3600 \lambda} &\small = 0.1296 \quad \cdots ②\\
\end{split}

「15分以内に車が全く通らない確率」も同様に考えると

\begin{split}
\small \mathrm{P}_{0}(900) &\small = e^{-900 \lambda}\\
\end{split}

と表せることから

\begin{split}
\small \mathrm{P}_{0}(900) &\small = e^{-900 \lambda}\\
&\small = \left(e^{-3600 \lambda}\right)^{\frac{1}{4}}\\
&\small = \left(0.1296\right)^{\frac{1}{4}} \quad \color{red}{◀式②を利用}\\
&\small = 0.6 \\
\end{split}

15分以内に1台も車が通過しない確率が60%であることが求まったので、逆に15分以内に車が通過する確率は、40%と求まる。

このように数式で計算することで、感覚に頼らない説明をすることができました。

【付録】ポアソン分布の数式表現

冒頭にポアソン過程は、ポアソン分布を時間変化させたものだと説明しました。つまり、逆に考えると、ポアソン過程を表す数式で経過時間\(\small t\)を一定にしたものがポアソン分布になります。

\(\small \lambda t\)が\(\small t\)秒間に通過した車の平均台数だったので、経過時間\(\small t\)が一定であれば、\(\small \lambda t\)も一定になるので、\(\small \lambda t → \lambda\)と置き換えて、\(\small \lambda\)を通過した車の平均台数と定義し直せば

\begin{split}
\small \frac{(\lambda t)^k}{k!} e^{-\lambda t} \space → \space \color{#ef5350}{\frac{\lambda^k}{k!} e^{-\lambda}}\\
\end{split}

これがポアソン分布を表す式になります。

本記事のまとめ

今回は車が交差点を通過する確率について、直観的な解法からポアソン過程を利用した厳密な解法まで徹底解説していきました。

ポアソン過程自体は大学の統計学で出てくるような話なので、少し難しい計算が多かったと思いますが、数式の計算自体は高校数学までの範疇で意外と理解できる内容でしたね。

今回の記事を通して、普段の何気ない日常生活の中にも数学が潜んでいることが実感してもらえると嬉しいです。

では本日はここまでです。お疲れさまでした!

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